本文
市指定有形文化財(絵画)
指定年月日:平成30年7月4日
所在地 :行橋市大字今井1802 浄喜寺
親鸞聖人絵伝(しんらん しょうにん えでん)とは、浄土真宗の宗祖である親鸞(1173-1262)の伝記を詞書と絵を交えてまとめた絵巻物を、法要で使用するのに適した掛軸としたものです。室町時代以降に四幅を一組とする絵伝が成立し、広がりました。親鸞の忌日を中心に行われる報恩講で掛けられますが、年に一度だけ使用するものであるために他の絵画に比べ状態が良好なことが多く、また寺と地域にとって貴重な文字資料である裏書をもっています。
浄喜寺の親鸞聖人絵伝は、絹本著色で掛幅装、四幅対(よんぷくつい)の作例で、画面法量は縦134.1cm、横77.9cmです。図様自体は真宗大谷派の一般的な四幅対絵伝と異なりませんが、その絵画的完成度と彩りは群を抜いて優れています。墨線でおおよその輪郭をとり、濃彩を施し、輪郭と細部を描き起こすという平安時代以来の伝統をもつ作絵の手法で、岩や土手、木の幹などに肥痩のある線を用いる他は輪郭を細く流暢な線で描き起こしています。彩色は濃厚でありながら明るく発色がよく美しく、質の高い絵具を贅沢に使っていることがうかがえます。丁寧な描線、良質な絵具、巧みで多彩な彩色、安定した構図によって、緻密で濃厚でありながら重苦しさを感じさせない、豊かで華やかな画面が実現されています。
四幅ともに裏書があり、寛永17年(1640)に浄喜寺の常住物として良伯(浄喜寺第六世住職の弟。一時第六世の代務者を務めた)が願主となって調えたものだとわかります。四幅とも東本願寺第十三世宣如の名と花押が見え、第三幅には釈尼妙円なる寄進者名も見えます。この裏書によって、行橋市に現存する最古の親鸞聖人絵伝であることがわかります。
浄喜寺の親鸞聖人絵伝は、福岡県内においても最古級の四幅対絵伝であり、親鸞聖人絵伝に限らず同時代の絵画一般と比較しても極めて水準が高い作品です。保存状態が極めて良好であるため、描かれた当時の彩色の状態を知ることができます。
また豊前地域の本願寺教団の中核をなした浄喜寺の江戸時代初期の様相を窺うことができる歴史資料でもあります。